2015年度愛知県私立幼稚園連盟給食陰膳調査結果について

2016年3月19日

未来につなげる・東海ネット 市民放射能測定センター(略称Cラボ)

1.はじめに
2月20日、2015年度愛知県私立幼稚園連盟による幼稚園給食陰膳調査の放射能測定が終了しました。今年度は総測定件数70検体で、いずれも放射性セシウムは検出限界以下(不検出)でした。セシウム137の検出限界の平均値は2.55ベクレル/kg、セシウム134は2.80でした。放射性セシウムはセシウム137とセシウム134の合計値です。よって放射性セシウムの見かけ上の検出下限値は5.35ベクレル/kgということになります。しかし、セシウム134は半減期が短く(2年)、すでに5分の1以下になっていて、半減期の長い(30年)セシウム137との比率は事故直後に1であったものが2016年1月時点で0.21になっています。よって、放射性セシウムの実質的検出下限値は、2.55×1.21=3.09から約3ベクレル/kgであったことがわかります。これまでの測定結果が全て検出下限値未満であったことは、食材の注意深い調達など、調査に参加された各幼稚園のみなさん、保護者のみなさん、給食業者など関係者の努力のたまものだったと言えると思います。

2.Cラボの検出限界の変化
Cラボは、少しでも検出限界を下げて、できるだけ微量の放射能を検知するべく努力を重ねてきました。そのことの一環として取り組んだバックグラウンドの低減についてご紹介します。
食品中の放射能を測定する時、検出限界に影響を与える主な因子は、測定時間、サンプル重量、バックグラウンドです。バックグラウンドとは、サンプル以外から放射されているガンマ線で測定を妨害する因子です。宇宙線やコンクリート壁や地面などに存在する天然核種、木材に含まれるカリウム40などから放射されているガンマ線です。この影響を防ぐために食品中放射能測定器は分厚い鉛で覆われています。しかし、それでも完全には防ぐことができません。そこで、より良い測定を求めてCラボでは鉛遮蔽を130kgも追加しました。この結果、測定器の総重量は追加遮蔽を加えると250kgになっています。
今年度の陰膳調査では、サンプル重量が約1kg、測定時間180分という条件で行いました。バックグラウンドについては、変化がありました。Cラボは2015年3月に名古屋市西区から昭和区に移転し、さらに、8月に瑞穂区関取町に移転しました。昭和区では鉄筋コンクリートのマンションンの1室でしたが、コンクリートの壁から出る放射線量が高く、バックグラウンドが上昇しましたので、追加の遮蔽材として、鉄板と約500kgの水を入れたペットボトルの壁を設置しました。これで総重量は約1トン近いものになっています。瑞穂区関取町は木造家屋ですので、バックグラウンドが低い上に、昭和区で追加した遮蔽材のおかげで、Cラボ発足以来最も低いバックグラウンド環境を得ることが出来ました。
このことが今年度の陰膳調査に明確に表れています。移転前の測定では、検出限界が平均でセシウム137が2.84、134が3.89、カリウム40が33.7でした。これに対して移転後は、セシウム137が2.41、134が2.64、カリウム40が21.6(単位はいずれもベクレル/kg)でした。

3.カリウム40(K-40)の検出について
 バックグラウンドが低くなったことによって、これまで不検出であることが多かった天然核種のカリウム40が数値化されることが多くなりました。このことについて、岡崎聖園マリア幼稚園の増田実千佳様から質問をいただき、下記のように回答させていただきました。

<ご質問:9/24の測定結果について、カリウム-40の結果が22とありますが、問題はありませんか? 基準値や超えると危険という数値を教えていただきたいです。>

<回答>

ご質問ありがとうございます。 はい、とりあえず、問題ないです。カリウム-40は、核爆発や原子炉内で人工的に作られたヨウ素-131やセシウム-137・セシウム-134とは違って、ウランや温泉成分で有名なラジウム・ラドンなどと同じように自然の放射性核種です。食塩の成分であるナトリウムと同じように、広く環境や生体の構成成分として存在するカリウムは安定な元素であり、生物にとって必須の元素です。植物の3大肥料であるチッソ、リン酸、カリウムの一つに

数えられてもいます。

カリウム中の0.0117 %が放射能を持つカリウム-40なのです。よって、私たちはカリウム-40を避けては生活できません。もっとも、腎機能が低下して透析を受けている方はカリウム-40ではなく、むしろカリウムそのものの摂取制限をしていらっしゃいます。

カリウム-40は、半減期12.8億年で、ベータ崩壊をして安定な元素(カルシウムやアルゴン)になりますが、その時にベータ線と同時にガンマ線も出します。C-ラボの装置は、γ線の検出装置ですので、通常食品に含まれるカリウム-40からのガンマ-線を検知しています。測定における各ガンマ-線核種の検出下限値は測定条件によっても異なりますが、検出下限値以上の場合には数値を記載し、検出下限値未満の場合は、検出下限値未満で不検出としています。

実は、C-ラボは8月にマンションの一室から木造の戸建てに引越し、大幅に測定環境中のカリウム-40によるバックグラウンド値が下がりました。測定環境がよくなった分、測定時間が同じでも、検出下限値が低くなりました。旧ラボで測った5・6・7月の検出下限値は25-38 Bq/kg(平均は33.7Bq/kg) でしたが、新ラボで測った9月以降2月までの検出下限値は平均で21.6 Bq/kg でした。したがって、旧ラボで検出下限値未満で不検出とされたものが、新ラボでは数値で示されることになりました。

同じ理由で、セシウム-137と134の検出下限値も低くなっています。低いところまで正確に測れるようになったということです。

なお、参考までに、これまでの幼稚園給食の測定結果を見直しましたところ、カリウム-40の最高値は71 Bq/kg でした。これは、玄米中のカリウム-40とほぼ同濃度でした。また、避けられないカリウム-40からの内部被ばく量は、経口摂取によって年間0.17mSvとされています。

もちろん有害な被曝なのですが、全ての生物にとって避けることのできない宿命のような被曝です。よって、食品の基準値はありません。人類は、これに追加して人工の放射能・放射線による

被曝をすることを極力避けなければならないというのが、被曝と健康に関する基本的な考え方です。

4.最近の食品放射能汚染状況について

 

放射能の減衰曲線放射性セシウム(赤線)は今後はセシウム137(青点線)の減衰曲線に従ってしか減衰しない

 福島原発事故から5年が経ちました。放出された放射性核種のうち、食品汚染が心配される主な核種は事故直後はヨウ素131(I-131)、セシウム137(Cs-137)および134(Cs-134)、そしてストロンチウム90(Sr-90)でした。このうちヨウ素131は半減期が8日間なので、80日後には約1000分の1に減衰して心配なくなりました。セシウム134は半減期が2年なので、6分の1ほどに減衰してきました。しかし、セシウム137は半減期が30年なので、あまり減っていません。放射性セシウムと言った場合は、セシウム134と137の合計値なのですが、この合計値がかなり下がってきたように感じられるのは、セシウム134が大きく減衰したからであって、今後はなかなか減りません。すなわち、放射性セシウムは今後ほぼセシウム137の半減期に従ってしか減衰しないからです(上図参照)。

食品中の放射能は大分低くなってきました。基準である100ベクレル/kgを超えるものは、キノコ類や山菜、イノシシやシカなどの野生動物の肉、淡水魚、福島県沿岸の海水魚などを除くと、ほとんど無くなりました。汚染田や汚染畑地ではカリウムを散布して植物にセシウムが取り込まれないようにしながら栽培されていて、それが功を奏しているようです。

しかし、私たちは100ベクレル/kgという基準を安全基準だとは考えていません。国際放射線防護委員会(ICRP)は、被曝線量と発がんリスクとの関係を閾値のない直線だとしており、これ以下なら安全という基準はないのです。自然放射線以外の放射線による追加被曝は出来る限り避けるべきなのです。まして、子どもたちは少しでも放射能が含まれている食品を食べるべきではないでしょう。例えば、福島県産のコメは全量検査されていますが、その検出限界は25ベクレル/kgですから、不検出が必ずしも安全を担保するものではありません。先日、離乳食のクッキー(ピジョン社)から約5ベクレル/kgのセシウムが検出されたことが報道されましたが、原因は茨城県産のサツマイモではないかとされています。原発事故の衝撃がどんどん風化していく中で、放射能が拡散していくことが心配されます。

5.チェルノブイリで見られた10年後の体内汚染

体内被曝線量経年変化
ラゴフカ村住民(平均)の体内被曝線量経年変化

Cラボのメンバーが一昨年、チェルノブイリ30キロ圏を視察した折に首都キエフにあるウクライナ国立放射線医学研究所のヴァシレンコ研究員から見せていただいたホールボディーカウンターによる体内放射能計測結果から計算された体内被曝線量の継年変化を右図に示します。驚くべきことに、キエフ州ラゴフカ村住民の体内放射能の平均値は、事故から10年後に再び事故直後と同等ないしはそれを超えるレベルまで上昇しているのです。同様の結果が他の16の村でも計測されています。この原因は、事故の衝撃の風化とともに、人々が野生のイチゴやキノコを食べるようになったからではないかとのことでした。

この失敗を福島原発事故が起きた日本で繰り返さないためには、事故から得られた教訓を風化させず、普段の注意を怠らない日々の努力が必要です。例えばカリウムの農地への散布を怠れば、土の中には大量のセシウム137が存在するわけですから、農作物汚染が見えないところで深刻化する恐れもあります。

6.スウェーデン国立放射線防護研究所による体内汚染調査結果

下図は、チェルノブイリ事故後に計測された多様な集団におけるセシウム137の平均体内濃度の経年変化です。最も低いのは、この研究を行ったスウェーデン国立放射線防護研究所の研究員たちです。次に低いのが町に暮らしている普通の市民です。その上に来るのが農民です。最も高いのは、ラップランドでトナカイの放牧をして暮らしているサミー人です。高濃度で放射能汚染した地衣類を食べたトナカイの肉などを食べている人々ですから高いのも無理はないかもしれませんが、研究所の研究員や家族たちと比べると100倍もの放射能を体内に摂取してしまっていることがわかります。このデータが物語るのは、正しい知識と、日々の注意深い行動選択が内部被曝を防いでいるということです。

平均体内濃度の経年変化チェルノブイリ原発事故後のスウェーデンにおけるセシウム137の平均体内濃度の経年変化

7 最後に

子供たちの健康を守るために、健全な食環境の整備は私たち大人に課せられた大切な使命です。事故から5年が経過して、食品の汚染度はかなり低くなってきていますが、安心感や無関心などから知らずに汚染食材が混入してきてしまう事例や可能性もあります。C-ラボは放射能測定を通して放射能汚染の心配の無い社会を目指していきます。その一環として、幼稚園連盟のみなさんと共に、今後も子供たちの給食の安全を監視していくお手伝いをさせていただきたいです。どうぞ、よろしくお願いします。

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